こんにちは、ゆるカピです。
今回は、建築物の耐震性や安全性について、どんなことを拠り所にしたらいいのかについて解説します。
構造安全性については、構造設計をする時に、まず始めに考えないといけない話なのです。ただ、できればクライアントとの関わりが深い意匠設計者にもある程度知っておいてほしい内容です。
今は建築の性能や品質が求められる時代です。なんとなく、構造設計者に任せっきりになっているかも、という人はこの機会に知っておくとよいでしょう。
どこまでやれば安全?
安全と言うとどんなイメージが浮かびますか?
例えば山の高さを「安全」の基準として、このレベルまで到達していたら大丈夫だだ、という線引きで考えてみましょう。5号目まで来れば安全だと考える人もいれば、山頂まで到達しないと安全じゃないと考える人もいるでしょう。あるいは、もっと高い別の山のこのレベルまで到達しないと安全じゃないと考える人もいるかもしれません。
なにが言いたいかというと、どこまで安全であればいいかは人それぞれだということです。
隕石が落ちてきても壊れないものを作ってくれるかな?
そりゃあもう、地下シェルターしかないなあ。
ここまで来たら、経済的合理性はなくなってしまいますね•••。
クライアントとの合意形成は欠かせない
ちょっとしたひび割れが入っただけで安全性が損なわれたととらえる場合もあれば、建築物全体が傾いて安全性が損なわれたととらえる場合もあるわけです。なので、クライアントが求める耐震性能によって耐震安全性は変わってきます。
最近は特に設計者に説明責任が強く求められるようになりました。入念に打ち合わせを重ねてクライアントとの合意を得ておくことが重要です。建築士は専門性の高い職種なので、一般の人と比べて情報の非対称性が高いということに注意しないといけません。誠意をもった対応を心がけるのが大事ということです。
安全性の基準
人によって安全性の基準がバラバラなら、なにを拠り所にしたらいいのか、と悩みますよね。
よく、震度6、7クラスの地震に耐えられる建築物という話を報道などで耳にします。しかし、どの建築物も一律に震度6、7クラスの地震に耐えられると断言することは残念ながらできません。
というのも、震度階は計測震度で決まり、建築物の構造形式や固有周期(高さ、規模)などが異なればその被害も異なってくるためです。
ざっくりの耐震性能の話でいいなら、震度階でもいいかも。〇〇クラスと表現しているのがミソだね。
建築基準法で掲げるのは最低限の基準だけ
もちろん、建築基準法にも安全性の基準はあります。ただし、大地震でも建築物が倒壊、崩壊せずに人命を守る、という最低限の基準です。
静岡県のように一部条例で厳しく定めている地域もありますが、基本的に全国一律で決まっているので、建築物が建っている地盤の状態や周辺環境に応じて個々に考える必要があります。
また、法令だけでは、大地震が起きた後の営業活動の再開や、損傷した構造駆体、設備の補修・取り替えの可否についてはカバーできません。大災害が起きても早期に元の生活が送れるようにするための、別の基準が必要になります。
耐震性能の拠り所となる基準
現在、建築物の耐震性能を考えるうえで、多くの構造設計者が拠り所にしているのが以下の2つの基準です。
- 耐震安全性の目標(国土交通省の「官庁施設の総合耐震・対津波計画基準」)
- 耐震性能グレード((一社)日本建築構造技術者協会)
こちらについて少し詳しく解説したいと思います。
耐震安全性の目標
国土交通省では、構造体、構造非構造部材、建築設備の3つの部位ごとに耐震安全性の目標(PDF注意)を設定しています。このうち、構造体の分類はⅠ類〜Ⅲ類に分かれていますが、Ⅰ類が最も厳しい条件の設計になります。
また、Ⅰ類〜Ⅲ類の性能を確保するため、重要度係数と呼ばれる安全率を掛けて構造計算を行います。
分類 | 重要度係数 |
---|---|
Ⅰ類 | 1.50 |
Ⅱ類 | 1.25 |
Ⅲ類 | 1.00 |
Ⅲ類は倍率が1倍なので、建築基準法同等の耐震性能という意味です。この重要度係数は、施設の用途によって変わるので、用途係数といわれることもあります。
耐震性能グレード
こちらは、(一社)日本建築構造技術者協会(以下、JSCAとします)が掲げている耐震性能の基準になります。先ほどの国土交通省の掲げる基準と違い、震度階と比較しながら説明しているので、わかりやすいです。
建物の状態を軽微な被害、小破、中破、大破の4つに分類、地震荷重の区分についても地震動の規模を4つに分類しているのが大きな特徴です。同じ建築物でもさまざまな地震動のレベルに応じた耐震性能の検証ができるところも、国土交通省の掲げる耐震性能との大きな違いといえます。
JSCAのほうが性能設計向きな話だから、クライアントへの説明にはこちらのほうがおすすめかな。
そのほかの基準
そのほか、超高層ビルのような規模の大きな物件では、これらの基準を参考にしつつ、別に基準を設定してクライアントに説明することもあります。
規模の大きい設計事務所のなかには、独自の基準を設定しているところもあります。久米設計が独自に設定する耐震基準は有名ですね。
鉄筋コンクリート造は耐震性が高くて木造は低い?
これは設計者でも勘違いしている人がいますが、構造種別(構造材料)によって耐震性が高くなったり低くなったりすることはありません。木造だったとしても、耐震性を高めていくことは十分可能です。
なぜこんな勘違いが生まれるかというと、木造住宅の地震による被害件数が圧倒的に多いためだと考えられます。最近は徐々に改善してきていますが、耐震グレードについて今まで適切に検討されてこなかったためともいえます。
構造種別の得意不得意を見極めながら、どこまでの安全性を確保するかについてクライアントと合意を図っていくことが重要です。
まとめ
建築の耐震性能について簡単にご紹介しました。後々のクライアントとのトラブルを避けるためにも、耐震性能についてしっかりと誠意をもって説明できるように心がけたいですね。
今回は耐震安全性の基本程度の内容としましたが、どんな耐震性能をもたせたらいいのか、構造の考え方はどうなのかについて、今後追って記事にまとめようと思います。
それでは、また。
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