一級建築士試験学科試験構造

【荷重の基本】固定荷重と積載荷重について解説

jute-bag一級建築士試験

建築物には、人や、机、椅子をはじめ、書棚や家電製品などのさまざまな重量がかかっています。これは、すべての物体には質量があって、地球上で生活する限り地球の重力加速度を下向きに受けているからです。

力学では、質量×重力加速度のことを重量と呼んでいます。単に荷重といったり、常に作用し続けるので常時荷重といったりすることもあります。期間で考えて長期荷重ということもあれば、鉛直方向に作用するから鉛直荷重といったりもします。

Aさん
Aさん

なんか、用語がたくさん出てきたね。

それぞれ、言い方の表現の違いに過ぎないので、すべて同じと考えて大丈夫です。

ゆるカピ
ゆるカピ

同じ意味なのに違う言い方してるから混乱を招いているよね。

構造力学では、常時荷重をさらに固定荷重と積載荷重に分けて考えます。こう言うと、

Aさん
Aさん

そもそも、分ける必要ってあるの?

と疑問に思うかもしれません。今回は、そんな疑問を少しでも解消できるように詳しく解説したいと思います。

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固定荷重ってどんな荷重?

固定荷重は、英語ではDead Loadと表現するので、構造計算書では略してD.L.と書くことがあります。その名のとおり、簡単に動かせないものの荷重のことをいいます。

代表的な固定荷重

固定荷重は大きく以下のように分けられます。

  • 柱や梁、床などの構造駆体の重量
  • 間仕切り壁、建具、アンカーなどで固定された什器
  • 床の仕上げ
  • 天井仕上げ、設備・照明などの吊り物

構造駆体の重量は、いわゆる自重(じじゅう)というやつです。構造ではじめて知ったというのは自分だけじゃないはず...。

ゆるカピ
ゆるカピ

この漢字、じちょうとも読めますが全く違う意味です。あなたはどっちの意味をよく使いますか?

仕上げ関係の重量に関しては、以前「建築物荷重指針・同解説」という日本建築学会の分厚い本に図解付きで載っていたのですが、今は載っていません。ものによって重量は違うし「実況に応じて」ということだからやむを得ないのですが、若干不便に感じてしまいます...。

積載荷重ってどんな荷重?

積載荷重は、英語ではLive Loadと表現するので、構造計算書では略してL.L.と書くことがあります。積載と聞くと、トラックの積荷の重量のイメージがありますが、トラックを建築に置き換えたと考えれば大丈夫だと思います。

ただ、トラックの積荷の場合は効率よくバランスよく積めるからいいのですが、建築の場合はどこになにが置かれるか人の往来はどうなっているか、ということを正確に決めるのは困難です。

じゃあ、厳しい側に全部決めちゃえばいいかというと、経済性がなくなってしまいます。そこで積載荷重では、構造計算する状態に応じて荷重のばらつきを考慮する方法をとります。

積載荷重のイメージ

では具体的にどのように考えるかというと、構造計算のパターンを①床計算用、②架構(柱、梁、基礎など)計算用、③地震用の3種類に分けます。

Aさん
Aさん

地震用?風とか雪とかは考えないの?

ゆるカピ
ゆるカピ

外力(地震、風、雪など)のうち、中にあるものの重量に依存しているのが地震だけだからだよ。

下図から考えてみましょう。建築物の中にいる人やものの重量を、柱や梁、床などの構造部材が負担するとします。

liveload-concept

この時、①の床の計算では床1枚分で重量を負担、②の架構の計算では床から四方に分散した重量を柱と梁で負担、③の地震用の計算では建築物の階全体で重量を負担することになります。

このように、①→②→③の順に負担する構造部材が増えていって、1つの部材あたりの負担量が減って平均化されていくことがわかります。

建築士試験などでよく聞かれる、積載荷重が床用>大梁・柱・基礎用>地震用の順に小さくなるというやつですね。

建築基準法で決まっている床の積載荷重

積載荷重は載ってくるものによって変わってくるといっても、好き勝手に決められるわけではありません。

建築基準法施行令第85条には、床の積載荷重の最低基準が決められています。実況に応じて、と書かれていますが該当する室の用途であれば守らないといけません。違っていると確認申請の時の説明に苦慮すると予想されます。

基準法に記載されている床の積載荷重表は以下のとおりです。数値がいっぱい並んでいますが、最低限、事務室の積載荷重を覚えておいて、ほかは人やものの重量のイメージで大小関係を理解すれば大丈夫です。

liveload-fig

積載荷重表のポイントは次のとおりです。

  • 床>大梁・柱・基礎>地震力の順に小さくなる
  • 人が密集する部屋の場合、非固定席のほうが人をたくさん収容できるので重く設定されている
  • 廊下・階段、屋上広場など、避難に関連する部分は重く設定されている

今後も3密が義務化されたら2つ目の内容は変わるかもしれませんね...。

支える床の数に応じて積載荷重を低減できる

建築基準法施行令第85条の積載荷重表の次の第2項に書かれているやつです。たぶん、初見の人は首を傾げる内容だと思います。条文の説明では理解できませんよ...。

支える床の数積載荷重を減らすために
乗ずべき数値
20.95
30.90
40.85
50.80
60.75
70.70
80.65
9以上0.60

おそらく、鉄骨造のオフィスビルを想定した考え方だと思います。

liveload-reduce

鉄骨造は鉄筋コンクリート造と比べて固定荷重が小さい(床面積あたりの駆体の自重が小さい)ので、積載荷重の影響を強く受けます。階数が増えた分だけ、オフィスビルの在席率が100%以上となる確率が下がっていくとすると、支える床の数だけ積載荷重を低減できるという理屈でしょう。

とはいえ、オフィスビルに想定外に人が集まるタイミングで大地震が来る可能性も否定できないので、経済性を狙ってギリギリを攻めるのは得策ではないと思います。

倉庫荷重(非倉庫業)は決まりがない?

IKEAの倉庫

建築基準法施行令第85条の第3項には、倉庫荷重(倉庫業)の床の積載荷重は$3,900N/m^2$以上にしなさいということがさらっと書かれています。

書かれてないですが最低基準の話なので、地震用として$3,900N/m^2$以上にしなさいということですね。先ほど挙げた積載荷重表の地震用のところと比較すると、一番重い劇場の非固定席の荷重の2倍くらいあります。

ただし、これは倉庫業を営んでいるところの倉庫荷重の場合です。IKEAとかAmazonの倉庫のイメージですね。

じゃあ設計図によく描いてある倉庫の荷重はというと、建築基準法上は決まりがありません。構造設計者の頼みの綱である建築学会の「荷重指針」を調べても、実況に応じて決めましょう、となっていて悩む設計者も多いと思います。

ゆるカピ
ゆるカピ

設計段階で倉庫に具体的になにを置くかなんて、決まってないのがほとんどだからね...。

ちなみに、国土交通省が発行している「建築構造設計基準の資料」には建築基準法より細かく積載荷重が設定されています。このうち、「法務局登記書庫」や「一般書庫、倉庫等」あたりがひとつの参考になります。

本格的な鋼鉄製の棚を設置しないのであれば、事務室荷重と劇場の非固定席荷重の間くらいで設定する、でもいいかもしれません。

ヘビーデューティーゾーン

床の一部分だけ重量物が載ることを想定して、積載荷重の割増を行っている範囲のことをヘビーデューティーゾーンといいます。

代表例だと、

  • 事務室で集密書架やラックなどが設置される場合
  • クリニックで、MRIなどの重量医療機器が設置される場合

などが挙げられます。

超高層ビルなんかだと、ヘビーデューティーフロアを設定する場合もあります。BCP対応のデータセンターを設置したい場合などが当てはまります。

まとめ

固定荷重と積載荷重って、実はかなり奥が深くて、構造以外の人にはとっつきにくい内容かもしれません。建築士試験の勉強したての人だったら、積載荷重の数値が覚えられないよ〜なんて声が聞こえてきそうです...。

構造以外の人で積載荷重の数値を細かく覚えている人って、たぶんいないと思います。数値を覚えるのは住宅の居室と事務室荷重だけにして(床用と架構用だけでもOK)、あとは室の用途ごとの大小関係のイメージさえおさえておけば大丈夫でしょう

事業主側の人や意匠系の人なら、用途変更が軽微変更で済むかどうかのひとつの目安になるので要チェックですね。構造補強が必要となるとコストに響いちゃうので...。

細かい数値は調べれば済む話なので、まずはざっくりとした理解を目指しましょう。それでは、また。

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